Ⅱ 「高年法」の問題点
2013年・平成25年4月1日施行
( 改正高年齢者雇用安定法 )
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Ⅰ 従業員の無年金期間をどうするか
高年齢雇用安定法の改正に関して、平成25年度以降に襲いくる「60歳以上の従業員」の無年金期間の問題をどう解決するか?
1.状況把握
所謂「無年金期間」について、どう対処するかは、「高年齢雇用継続給付金」制度と合せた理解が必要です。実態把握として現状を次のとおり整理します
論 点 |
無年金期間 |
年金支給期間 |
1.年金支給 |
ない |
ある(在職老齢年金) |
2.高年齢
雇用継続給付 |
支 給 |
支 給 |
3.標準報酬月額
の改定手続き |
随時改定 |
同日得喪
(備考参照) |
4.問題点 |
1) 年金分の手取り減となります。
2) 賃金引き下げ後4カ 月間は過大社会保険料の負担が課題になります。 |
従来(平成24年度ま での60歳)と同条件です。 |
備考:
「同日得喪」とは、同日に社会保険の被保険者資格を喪失し再取得することで、「資格取得時決定」により標準報酬月額を決定することで、実質的に標準報酬月額を即時改定する特例です。この措置は、通常の「随時改定」の場合、標準報酬月額が改定されるまでの3カ月間、「特別支給の老齢厚生年金受給権者」であることを前提として、在職老齢年金計算上の不利益が生じることを回避するための特例です。
しかし、問題は、平成25年度以降に60歳になる男性は、60歳の時点では、まだ「特別支給の老齢厚生年金受給権者」にはなっていないので、「同日得喪」の適用要件を満たさない点です。その結果、「同日得喪」が適用できなければ、随時改定となり、標準報酬月額の改定時期は、賃金引下げ月の4カ月目になってしまいます。
2.論点整理
平成25年度以降に60歳になる労働者の年金支給開始年齢は61歳です。その後、労働者の年金支給開始年齢は、段階的に65歳まで引き上がる制度になっています。従って平成25年度以降の5年間の雇用期間は「無年金期間」と「年金支給期間」に分かれます。その5年間において「無年金期間」は次第に長くなる仕組みになっています。現状の再雇用者の賃金をみますと、定年前の6割程度とする企業が多いようです。その理由は、年金支給と高年齢雇用継続給付の併給問題があると考えられます。
しかし「無年金期間」においては年金が支給されません。そうなれば「無年金期間」の賃金をどのように設定すればよいかが問題になります。
平成25年度以降に生ずる60歳以上の社員の「無年金期間」の賃金に関係する制度環境下では、高年齢雇用継続給付は従来通りでも、年金は支給されません。更に所謂「同日得喪」が不可な社員の手取り収入は不利な制度的状況があります。このことは、60歳で従来通り賃金が大幅に引下がる社員にとっては、実質4カ月間(賃金からの社会保険料控除は前月分)は、実賃金に対して割高な社会保険料負担になることを意味します。尤も60歳以後、有期労働契約で雇用継続している場合、年金支給開始年齢以後に契約更新したときは「同日得喪」は適用されます。
なお、高年齢雇用継続給付制度では、60歳以後の賃金が「60歳到達時賃金」の61%以下であれば、賃金の15%という定率で算定されますから、賃金が下がれば支給額も下がり、逆に賃金が上がれば支給額も上がる仕組みになっています。従って給付の支給額は「60歳到達時賃金」の61%の賃金のときに、その支給額は最大になり、賃金をそれより上げても下げても支給額は低下します。仮に現在60歳以後の賃金を「60歳到達時賃金」の61%に設定している企業が、社員の年金不支給に配慮して「無年金期間」においては賃金の引下げ幅を30%にした場合、従来に比べて賃金を引上げたことになるわけですが、その引上げ幅の65%は高年齢雇用継続給付の支給減により相殺されます。更に社会保険料や税負担が増加しますから、実際に社員の手取り収入は賃高年齢雇用継続給付の支給額と賃金の関係金増加額の20%にもなりません。「年金喪失の補てん」を「年金喪失による手取り収入の補てん」と捉えれば、そのための賃金引上げが「高年齢雇用継続給付」の喪失をもたらし、結果として「(最終)手取収入減」の補てんはできないことになります。注意と何らかの対策が必要です。